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福岡高等裁判所 昭和47年(ラ)121号 決定

抗告人

株式会社マルミヤ紙業

右代理人

川口彦次郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨ならびに理由は、別紙記載のとおりである。

抗告の理由一について

本件記録によると、右抗告の理由(一)の事実が認められる。しかし、当裁判所は、競落人に対抗できない競落不動産の占有者に対しては民事訴訟法第六八七条の規定による不動産引渡命令を発することができる(同不動産引渡命令の相手方たるべき者は、執行債務者または競落不動産の所有者もしくはそれらの者の一般承継人に限らない)ものと解する。したがつて、抗告人の右抗告の理由(二)、(三)の主張は、採用できない。

同二について

本件記録によると、

(一)、(1)、本件不動産引渡命令は、同命令別紙第一、第二各目録記載の宅地、家屋をその競売不動産とする、根抵当権の実行としての福岡地方裁判所久留米支部昭和四五年(ケ)第五号不動産競売事件につき、同不動産競売事件における競落人(競落許可決定言渡し昭和四七年四月一九日)である株式会社岡本の申立てにもとづき、同年一〇月二五日、抗告人を相手方としてなされたものであつて、その内容は、前記宅地、家屋を右競落人に引き渡すべきことを命じたものであること、

(2)、抗告人は、本件不動産引渡命令がなされた当時およびそれ以降現在にいたるまで、右各家屋を占有し、かつ、同各家屋を占有することによつてそれらの敷地である右各宅地をも占有していること、

(二)、(1)右根抵当権は、抵当権者を株式会社大同洋紙店、債務者を合資己社宮田紙店、根抵当権設定者を同合資会社および宮田克己として、昭和四二年七月二七日、同合資会社所有の前記第一目録記載の宅地、家屋ならびに右宮田克己所有の前記第二目録記載の宅地、家屋につき設定されたものであつて、同年八月二日、右各不動産につきその根抵当権設定登記が経由されていること、

(2) 右不動産競売事件においては、債権者は株式会社大同洋紙店、債務者は合資会社宮田紙店、所有者は同合資会社および宮田克己であるところ、同事件につき不動産競売手続開始決定がなされたのは、昭和四五年二月一七日であり、前記各不動産につきその競売申立ての登記がなされたのは、同月一八日であつたこと、

(三)、(1) 右第一目録記載の家屋については、賃貸人を合資会社宮田紙店、賃借人を大山タツノ、賃貸借期間を昭和四三年四月五日(前記根抵当権設定登記経由後)から昭和四六年四月四日(前記競売申立登記経由後、本件不動産引渡命令発布前)まで(三年間)とする建物賃貸借契約が成立していたが、昭和四三年七月一日、同契約にもとづく右家屋についての賃借権が、前記合資会社の承諾のもとに、右大山タツノから抗告人に譲渡され、同家屋の引渡しがなされていたところ、昭和四六年四月四日、右合資会社と抗告人らとの間において、双方合意のうえ、前記賃貸借が昭和四九年四月三日まで更新されたこと、

(2) 右第二目録記載の家屋のうち「木造瓦葺平家建店舗兼居宅床面積拾九坪五合(64.46平方米)」の部分については、賃貸人を宮田克己、賃借人を抗告人、賃貸借期間を昭和四三年七月一日(前記根抵当権設定登記経由後)から昭和四六年六月三〇日(前記競売申立登記経由後、本件不動産引渡命令発布前)まで(三年間)とする賃貸借契約が成立していて、同家屋部分の引渡しがなされていたところ、昭和四六年六月三〇日、右宮田克己と抗告人との間において、双方合意のうえ、前記賃貸借が昭和四九年六月二九日まで更新されたこと、

以上の各事実が認められるが、抗告人が前記第二目録記載の家屋のうち右賃借部分を除いた部分についても賃借権を有していたことを認めるべき資料はない。右各事実によると、本件不動産引渡命令別紙第一目録記載の家屋についての合資会社宮田紙店と抗告人との間の更新前の賃貸借は、民法第六〇二条に定められた期間を超えない、いわゆる短期賃貸借であり、しかも、これについては目的家屋の引渡しがなされているのであるから、もともとその賃貸借契約が目的家屋についての根抵当権設定登記経由後に成成立したものではあるけれども、賃借人である抗告人は、同法第三九五条により、その賃貸借をもつて根抵当権者である株式会社大同洋紙店に対抗できたのであるが、その短期賃貸借の期間は、目的家屋についての競売申立登記経由後、すなわち根抵当権の実行による差押えの効力が生じた後である昭和四六年四月四日の経過とともに満了したのであるから、このような場合には、抗告人は右賃貸借の更新をもつて、前記根抵当権ひいてはその根抵当権の実行による不動産競売事件における競落人である株式会社岡本に対抗することはできないものと解するのが相当である。さらに、右各事実によると、本件不動産引渡命令別紙第二目録記載の家屋のうち「木造瓦葺平家建店舗兼居宅床面積拾九坪五合(64.46平方米)」の部分についての宮田克己と抗告人との間の更新前の賃貸借もまた、前同様いわゆる短期賃貸借であり、かつ、これについても目的家屋部分の引渡しがなされているのではあるが、目的家屋部分と区画されている(借家法の適用が受けられるほど)ことを認めるべき資料はないから、賃借人である抗告人は、その賃貸借をもつて、前記根抵当権者に対抗することはできなかつたものというほかなく、仮に目的家屋部分が他の家屋部分と区画されていて、借家法の適用を受けるものであり、したがつて、前同様抗告人が更新前のその賃貸借をもつて右根抵当権者に対抗することができたとしても、その短期賃貸借の期間は、根抵当権の実行による差押えの効力が生じた後である昭和四六年六月三〇日の経過とともに満了したのであるから、前同様、抗告人は、右賃貸借の更新をもつて、前記根抵当権者ひいては競落人である株式会社岡本に対抗することはできないものと解すべきである。そうすると、抗告人は、競落人である株式会社岡本に対抗することのできない本件競落不動産の占有者に該当することが明らかであるから、抗告人を相手方として前記の短期賃貸借期間の満了後になされた本件不動産引渡命令を違法とする抗告人の右抗告理由の主張は、理由がない。

そして、本件記録を精査しても、他に原命令を取り消すべき事由は認められない。

それで、本件抗告を理由なしとして棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(池畑祐治 桑原宗朝 富田郁郎)

(別紙)

抗告の趣旨

「原命令を取り消す。競落人株式会社岡本の本件申立てを却下する。」との裁判を求める。

抗告の理由

一、(一)、抗告人は、本件福岡地方裁判所久留米支部昭和四五年(ケ)第五号不動産競売事件における債務者またはその一般承継人ではない。

(二)、ところで、民事訴訟法第六八七条の規定による不動産引渡命令の相手方たるべき者は、債務者ならびにその一般承継人に限られる。

(三)、したがつて、抗告人を相手方としてなされた本件不動産引渡命令は、違法であつて、取り消されるべきである。

二、(一)、仮に不動産引渡命令の相手方たるべき者が債務者ならびにその一般承継人に限らないとしても、抗告人は、原命令別紙第一、第二各目録記載の家屋について賃借権を有し、その旨の登記を了して、同各家屋を占有しているのであるから、それらの賃借権をもつて本件競落人に対抗し得る右各家屋の占有者である。

(二)、したがつて、抗告人を相手方としてなされた本件不動産引渡命令は、違法であつて、取消しを免れない。

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